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子宝草目録2-③ Suffrutescentes/ふたつの胡蝶 [taxonomy]

  フェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoiとラクシフローラ Kalanchoe laxifloraは園芸的にはどちらも胡蝶の舞の名で流通しており、混同されている。本来「胡蝶の舞」はラクシフローラなのだがフェッシェンコイの斑入りのタイプに「胡蝶の舞錦」などという紛らわしい名前を付けるものだから混同されるのも無理はない。更にショップでは斑のないフェッシェンコイが「胡蝶の舞」の名で売られていたりする。これではマニア以外の人に混同するなというのは酷である。
 そこで以前にも一度試みたことがあるが、フェッシェンコイとラクシフローラの判別法に再挑戦したい(前回は失敗に終わっている)。わざわざ「判別法」と書いたのは、同定法とまでは言えない経験的なものだからである。前回から3年を経て、私にも少しずつ分かってきた。

 最初にお断りしておくと、若葉はどちらの種も特徴を現さないことが多いので、特に小さな苗では区別がつかない(正確にはつきにくい)と思って頂きたい。両種の特徴が現れるのは多少成長してからである。更に1、2年栽培すると開花するので、花を見ると区別しやすい。

 といいつつ先ずは葉を比較するとフェッシェンコイは葉柄が短く(殆ど無いことも多い)、葉柄近くに鋸歯がなく葉身の上方にのみ鈍鋸歯があるのが典型的な形である。しかし例外も度々あって葉柄近くから鋸歯が見られるタイプもあるが、どちらも葉の全体的な形は逆披針形である。

フェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoiの葉
葉柄近くにも鋸歯のある葉(左) と 典型的な形(右) 
IMG_1299.JPG 

 一方ラクシフローラは葉柄が顕著で葉縁全体に鈍鋸歯がある(故にシノニムとして消えた名前でBryophyllum crenatumと命名されたのだろう)。そして葉身の基底部に耳状部(反り返った部分)が生じることが多い。しかし耳状部がない変種もあり、成長過程によって生じていない場合もある。

ラクシフローラ Kalanchoe laxifloraの葉
violacea(左)、subpeltata(中央・右)
IMG_1300.JPG 

ラクシフローラ K. laxiflora(左) とフェッシェンコイK. fedtschenkoi(右)の典型的な葉
laxiflora(T)-fedschenkoiIMG_9625.JPG 

 このように典型的なタイプを比べると両種の違いは明確だが、どちらも変種があり、また変種として記載されていなくとも複数のバリエーションが見られるので、葉だけで判断が難しい場合も多い。
 従って花を比較することになるのだが、下の写真のようにフェッシェンコイの花はオレンジ味が強くて花筒の先は広がっている。一方ラクシフローラでは赤味や朱色が強く花筒の先の開きは少ない。しかし前回述べたようにK. fedtschenkoi var. isalensisでは花は赤みが強く、ラクシフローラでも花筒の先が開くタイプもあるようなので葉と花のコンビネーションで種を判別するのが望ましい。

ラクシフローラ K. laxiflora(左・中央) とフェッシェンコイK. fedtschenkoi(右)の一般的な花
flowers.jpg 

 以上のようなことを書くと結局は区別がつかないように思われるだろうが、実際には意識して見ていると段々と見分けがつくようになってくる。やはり種特有の雰囲気というものがあり、それは植物に限らず動物にも当てはまる識別感覚と言える。


子宝草目録2-② Suffrutescentes/胡蝶の彷徨い [taxonomy]

 前回中途で終えてしまったフェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoiであるが、要するによく見かける胡蝶の舞錦のノーマルな個体(斑がないという意味)である。無斑胡蝶の舞錦などというややこしい名前はないので、ここではフェッシェンコイとしておく。葉の外輪に斑が入る(覆輪)のが胡蝶の舞錦で、中斑のものは某通販サイトで「胡蝶の幻」の名で販売されているが正式な和名や園芸名が存在するのかは知らない。
 マダガスカル中部から南東部に分布しており、イザロ国立公園周辺には別変種K. fedtschenkoi var. isalensisが見られる。この変種の特徴は枝がすみれ色で、花は小さく深い赤色と言われる。
 基本的に葉の上部に鈍鋸歯があるが、葉全体に鋸歯が及ぶものも見られる。2008年にISIでKalanchoe laxifloraとして紹介された葉全体が鋸歯に覆われた個体は、その後Kalanchoe fedtschenkoiであると訂正されたが、実際はKalanchoe serrataのバリエーションではないかとの憶測も囁かれている。

フェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoi
01_ fedtschenkoi#1.JPG 
葉の全縁に鋸歯のある個体K. fedtschenkoi
02_ fedtschenkoi#2.JPG 
胡蝶の舞錦 'Marginata'
03_ fedtschenkoi'Marginata'.JPG 
胡蝶の幻 'Variegata'
04_ fedtschenkoi'Variegata'.JPG 
斑の入るもの
05_ fedtschenkoi#3.JPG 
ISI2008-21 これはfedtschenkoiなのかserrataなのか
06_ISI 2008-21.JPG 

 フェッシェンコイ繋がりで言うと、いつも引用しているBoiteauと Allorge-BoiteauのKalanchoe de Madagascar(1995)にfedtschenkoi×roseiの自然交配種存在が報告されている。これはマダガスカル南部のブアラBehara産であるが、その更に北部のAndringitraでも見つかっている。外見的にはフェッシェンコイの葉にラクシフローラのような葉柄と基底部の反りがあるような植物で、本当にこの2種の交配種なのか、どうやって判断したのか分からないが園芸的には判別可能なので、ここでも触れておきたい。

 さて、本物の胡蝶の舞はマダガスカル中東部に分布する草本性のKalanchoe laxifloraである。紛らわしいので今後はラクシフローラの呼び方で統一したい。この種は変異が多く3つの亜種に分かれるとされているが、それ以外にも10以上の型が知られるという。但し、それらが記載された文献があるわけではなく各々の変異の差異については確認のしようがない。
 3つの亜種はBoiteauとMannoni(1949)によりviolacea、stipitata、subpeltataとして記載され、その後Jacobsen(1970)やRauh(1995)はそれを変種として扱った。よく分からないのはBoiteauとMannoni(1949)は3亜種の記載時にlaxifloraやtypicaといった基亜種は記載していないことである。同じ記事でK. fedtschenkoi var. isalensisの原記載も行っており、そこでは基変種typicaの記載もあるのでもしかするとlaxifloraに関してはviolaceaあたりを基亜種として考えているのかもしれない。と思っていつものBoiteauとAllorge-Boiteau(1995)を見ると、Kalanchoe laxiflora ssp. laxifloraの名がありKalanchoe laxiflora ssp. violaceaをそのシノニムとしていた。しかしKalanchoe laxiflora ssp. laxifloraという亜種が記載された記録はないので、命名規約上Kalanchoe laxiflora ssp. violaceaに先取権がある。
 Rauh(1995)は3亜種を3変種として扱っているが、BoiteauとAllorge-Boiteau(1995)の分布図を見る限り3つの亜種は分布が混在しているので変種として扱った方に説得力を感じる。
 Rauh(1995)から3つの亜種(変種)の区別法を引用しておくが、あまり役には立たない記述である。

Kalanchoe laxiflora ssp. violacea 
 葉縁は赤紫、耳状部(葉身基底部の反りのこと)は目立たない、萼は紫色、花冠は赤またはピンク。
Kalanchoe laxiflora ssp. stipitata
 葉には茶色い斑があり、耳状部は殆どない、花は明確な小花柄がある、花冠は赤もしくは黄色がかったオレンジ。
Kalanchoe laxiflora ssp. subpeltata
 葉縁は鋸歯の切れ込みに目立たない赤い斑があり、耳状部は大きい、花冠はオレンジがかった赤。

一般的に見られるラクシフローラ。これはsubpeltataに相当する
07_laxiflora#1.JPG 
これもsubpeltata
08_laxiflora subpeltata.JPG 
こちらも良く見られるタイプでstipitataに相当
09_laxiflora stipitata.jpg 
縁取りが美しいviolacea
10_laxiflora  violacea.JPG 
これも花からするとlaxifloraだが.....
3亜種には当てはまらない
11_lax or fed or so.JPG


子宝草目録2-① Suffrutescentes/胡蝶の舞とその仲間 [taxonomy]

 何とはなしに始めてしまった子宝草のリストアップだが、以前紹介したグループの順番は無視して今回から私の好きな胡蝶の舞の仲間を紹介したい。国内でもよく見かけるグループである。薄手の葉を胡蝶(チョウ)に見立てた優雅な和名(本当は園芸名?)であるが、この名で呼ばれる植物が2種あり(というより混同されており)混乱を招いている。その辺の事情はこのブログでも何度か触れているので、詳しくはこちらの記事をご参照ください。
胡蝶の舞の素性(前篇)http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2014-01-18

さて、このグループも構成種を変種レベルで列挙する。変種の中には現在の分類上シノニムとされているものも含むが、区別できそうなものを残した。
・Kalanchoe fedtschenkoi
     Kalanchoe fedtschenkoi var. fedtschenkoi
     Kalanchoe fedtschenkoi var. isalensis
・Kalanchoe laxiflora
     Kalanchoe laxiflora ssp. violacea 
     Kalanchoe laxiflora ssp. stipitata
     Kalanchoe laxiflora ssp. subpeltata
・Kalanchoe marnieriana
・Kalanchoe serrata
・Kalanchoe waldheimii
・Kalanchoe tenuiflora
・Kalanchoe ×lokarana
--------------------------------------------------------------------------------
・Kalanchoe rosei
     Kalanchoe rosei ssp. rosei
     Kalanchoe rosei ssp. serratifolia
     Kalanchoe rosei ssp. variifolia 
     Kalanchoe rosei var. seyrigii
・Kalanchoe ×richaudii

 これを大きく2つに分けると上記の点線から上に挙げたfedtschenkoiやlaxifloraタイプの広い葉を持つグループと点線から下の葉身が細めなroseiグループに分かれる。後者は最近大規模な分類学的な見直しが行われるようなので、後回しにして前者の概観をまとめてみたい。
 このfedtschenkoiのグループは上に挙げたように雑種起源のものも含めて7種+変種が記載されている。この他にも未記載種と思しきものや区別可能な変種あるいは品種として扱えるものが知られる。

 では先ずショップなどを見る限り最も普及していると思われるフェッシェンコイK. fedtschenkoi(よくフェドチェンコイと呼ばれている)から話を始めたい。本来なら胡蝶の舞の和名が与えられているラクシフローラK. laxifloraから始めてもよいのだが、この種を売っているのは殆ど見たことがないのだ。街の植え込みや他人のブログではたまに見かけるのだが、最近は流通していないのだろうか。
 一方フェッシェンコイはよく販売されているのを見かける。胡蝶の舞錦はK. fedtschenkoiの斑入りであるし、“リンリン”という名称(商品名?)のカランコエもK. fedtschenkoiである。ミニ多肉や多肉の寄せ植えとして売られていることも多い。
 嘆かわしいことに、今やフェッシェンコイが「胡蝶の舞」として認識されているようだ。以前述べた唐印やコダカラベンケイ(シコロベンケイ)と同様の現象だ。個人的にこういうことは嫌いなので、当ブログでも遺憾の意を表したい。

 などと書いているうちに長くなってしまったので、これこそ遺憾なのだが話を始めようとした矢先で打ち切って、次回につなげたい。

典型的なフェッシェンコイである胡蝶の舞錦K. fedtschenkoi
fedPA310155.JPG


ベハレンシス・ストレイン PartⅡ [taxonomy]


 前回はベハレンシスの交配品種について書き始めたのだが、近頃は花ものとブリオフィルムにうつつを抜かしているため、途中で気力が途切れて頓挫してしまった。気を取り直して、もうひと踏ん張りしたいと思う。
 さて、ローズリーフやファーンリーフ(オークリーフ)に並んでもうひとつよく知られる品種はファングである。ローズリーフに似るが葉の裏に棘のような突起物がある。これは月兎耳との交配種という説があるが、詳しい情報は不明である。月兎耳と交配して何故葉裏の突起物が生じるのかも謎だ。高さ1.7m位には育つが最大どのくらいに育つのかも分らない。80年代終わり頃から登場して、突起物を「牙」に見立てて‘Fang’ということだろう。

ファング‘Fang’:葉の裏の突起物が特徴
Fang.JPG 

 このファングと近いものにブラックファングがある。これを購入したナーセリーの方は、これがファングの元ではないかと疑っていた。これは「牙」のないファングで、かといってローズリーフではない。
 何気なく育てていたが、あるとき葉の一部に(遺伝学でいう)モザイクのように「牙」が生じ、先祖返りのように思えた。更に誤って折ってしまった葉から発生した不定芽の個体は、葉の裏に突起を持つ「ファング」であった。このことからブラックファングというのは、ファングに生じた枝変わりであろうと思われる。
 従ってこれがファングの祖先系に近い外観なのかは何とも言えない。

ブラックファング'Black Fang'
BlackFang.JPG 

 交配種だろうと思われるが、はっきりしない品種にナナNanaがある。この名称は前述(前回)のRauhの著書によるもので、ISNも踏襲している。しかし個人的にはあまり好きな名ではないので、一般的に知られるブラウンドワーフとかブラウンフォームと呼んでおきたい。その名の通り小型で、特徴はカールした楕円形の葉である。

ブラウンドワーフ'Brown Dwarf'って、褐色矮星のこと?
BrownForm.JPG 

 交配種だか何だか分らないものにミニマがある。カールした切れ込みのある葉が特徴で、高さ50cm程度の小型品種である。栽培条件によっては切れ込みが浅くなってしまう。これの無毛版ともいえるベビーズボトムも小型の矮性品種であるが、かなり稀少で私は見たことがない。

オシャレ系のインテリア店でも見かけるミニマ'Minima'
Minima.JPG 

 大体以上が主なもので、他にも楯状葉のローズリーフとか、米国のGlasshouse Worksで扱っているパナマエンシスなどがあるようだが、全容を掴み切れていない。大型種故、置き場所の問題が絡んで集めるのも難しいので、ベハレンシスの品種についてはこれくらいで打ち止めにしようと思う。


ベハレンシス・ストレイン [taxonomy]

 仙女の舞/ベハレンシスには様々なタイプのものがあるが、今回紹介するものの大半はおそらく園芸品種であろう。他のカランコエ属と交配して作出したものとしては、ローズリーフ、ファーンリーフ、ファングが一般的だ。
 ローズリーフとファーンリーフはISN(International Crassulaceae Network)のHPによると米国で作られたもののようだが、国内外で名称の混乱がある。特に混迷しているのがファーンリーフで、私も以前はこれをオークリーフだと思っていた (実は今でも怪しんでいる) 。ISNの情報で古いナーセリーのカタログがあり、それによるとそのカタログの写真のタイプがファーンリーフで、オークリーフは以前ベハレンシスの原種の記事で触れた長葉タイプに近い。
 但し、このカタログの写真が掲載時というか印刷時というか、間違ってしまった可能性も皆無でないと思う。実際、写真を逆にすると葉形とオークリーフの呼称がシンクロするのだが…..。

これはファーンリーフ‘Fernleaf’か、オークリーフ‘Oakleaf’か?
fernleaf or....JPG 

 上の写真の品種を取りあえず今はファーンリーフとしておくが、オークリーフとして扱っているサイトが多い。国内ではこれをホワイトリーフとかローズリーフと称して売っている事がある。ホワイトリーフは日本で付けた名だろうか。それは良しとして、ローズリーフの呼称は間違いである。
 しかし、間違いには無理からぬ事情もある。以前紹介したWerner Rauh著、Succulent and Xerophytic Plants of Madagascar vol.2でファーンリーフの写真がRoseleafとして載っている。こんな権威者が間違えば、後輩たちは一蓮托生で間違ってしまうものだ。

 実際のローズリーフは下の写真のタイプで、これは仙女の舞として売っていたりするが、ファーンリーフ共々あまり大きくはならない。

こちらが実際のローズリーフ‘Roseleaf’
roseleaf (2).jpg 

 上記の両者ともベハレンシスとミロティの交配種と言われている。タイプの違いは正逆交雑の違いか、交雑自体が遺伝子組み換えで行われているのか不明である。時代を考えると遺伝子組み換えの可能性はないか?
 ベハレンシス錦と呼ばれるのはこのローズリーフの斑入りである。斑が入っていることは入っているが、あまり目立たないことも多い。特に少し葉焼けしたりするともう斑が見えなくなってしまう。

ベハレンシス錦ことローズリーフの斑入り‘Roseleaf Variegata’
Roseleaf Variegata (2).jpg 

 続きはまた次回。