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子宝草目録2-⑥ Suffrutescentes/バラの一族 [taxonomy]

 長々と続けているSuffrutescentesの仲間であるが、今まで紹介したラクシフローラ種群に対してもう一方にロゼイroseiの仲間が知られる。但しラクシフローラの1群は単系統だろうが、ロゼイの仲間もそうだとは限らない。

 それと「ロゼイ」と書いてしまっているが、この種小名は米国のベンケイソウ科研究者として名高いJoseph Nelson Roseに由来するから「ローズィ」と読む方が正しい。(学名を英語読みしてラテン語読みに批判的な人々もいるが、これならどう転んでも英語読みなので「正しい」と書いても異論はないだろう。)しかし極めて個人的な理由だが、ローズィと呼んでしまうとこのブログのアイコンの子と被ってしまうのでロゼイと呼ぶことにしている。
 人名などの固有名詞はラテン読みや英語読みではなく元の言語の発音に従うのが原則なのでなるべくそうしたいが、すでに定着している呼び名(敢えて和名とは言いません)はここでもそのまま使っていたりする。マンギニーとかベハレンシスとかだ。大体人名も地名も元の言語が何かは分かりにくいし、発音となるとなおさらである。なので適度に折衷しながら多少はこだわりを持ってやっていこうと思う。

 最初から脱線してしまったが、実はこの仲間について書くのは気乗りしない。現在ロゼイ種群のレビジョンが行われていて、現在の種分類が少なからず変更になるという一種のインサイダー情報を知ってしまったからだ。発表前なので当然この情報は公開できず、悪いことにアクシデンタルな理由で発表時期が未定になっている(ヘタをするとずっと公開できないかも知れない!)。[こういうことを書きっぱなしというのもいやらしいので、その内容について概要を知りたい方は、ISNのKalanchoe roseiの項を御参照下さい。]

 というわけで仕方ないから現状の分類に従ってサラッと紹介するに留めたい。以前書いたことの繰り返しになるが現状、ロゼイは4つの亜種や変種に分けられる。それとは別に交配種も知られる。
・Kalanchoe rosei(以下4つが亜種と変種)
  Kalanchoe rosei ssp. rosei
  Kalanchoe rosei ssp. serratifolia
  Kalanchoe rosei ssp. variifolia 
  Kalanchoe rosei var. seyrigii
・Kalanchoe ×richaudii(交配種)
(このうちserratifoliaとvariifoliaはShaw(2008)が変種にステイタス変更した、がここでは元のまま亜種としておく)

 基変種ロゼイK. rosei ssp. rosei(とK. rosei var. seyrigii)はマダガスカル中南部に分布している。現在は鋸歯が比較的浅く披針形の葉を持つものが基変種のロゼイとされている。花はラクシフローラに比べてスリムである。国内でも宮古島では帰化しているようだ。たまにこれを不死鳥と誤認していることがある。
 Suffrutescentesでもラクシフローラ種群は葉を切り取って土の上に置いておくと葉縁に不定芽を生じる。状態次第では茎についたままでも不定芽が形成されるが、稀である。その点ロゼイや以前紹介したラウイは葉を切り取らなくとも不定芽をつけることが多い。勿論通常不定芽を生じるScandentesやBulbilliferaeといったグループよりは生成頻度は劣るが、それらの仲間と同じようなタイプの不定芽が出来る。
(不定芽のタイプについてはブリオフィルムの系統/葉縁に不定芽を形成するタイプ③ ;http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2016-08-27参照)

 鋸歯の大きなセラティフォリアの仲間については稿を改めたい。

基変種のロゼイK. rosei ssp. rosei(とされているもの)
rosei01IMG_8577.JPG 

ロゼイの花
rosei02IMG_2517.JPG


タグ:ロゼイ

子宝草目録2-⑤ Suffrutescentes/その他の近縁種 後編 [taxonomy]

 前回はラクシフローラ型の仲間を紹介したが、今回はその続きである。

 この仲間で一番特徴的な葉を持つのがセラタK. serrataである。ラクシフローラ型の他種と混同する恐れはないにもかかわらず、この植物に関しては誤認が甚だしく、googleで画像検索しても本物の写真が殆ど引っかかってこない。海外では多くの人が不死鳥の類(この言い方は不自然ですが、近い将来別の記事で解説予定です)をこれと勘違いしているようだ。種小名は「鋸歯のある」の意なので、確かに不死鳥類は鋸歯が目立つのだが、全くの間違いである。また国内ではKalanchoe節に属すると思われる種が「セラタ」の名で販売されているらしく、ネット上に鈍鋸歯のある一般的なカランコエの写真がヒットする。
 更に書物を見てもSajeva,M. and M. Costanzo(2000)"SUCCULENTS Ⅱ: The New Illustrated Dictionary"とか佐藤(2004)「世界の多肉植物 2300種カラー図鑑」といったスタンダードなものでさえ、K. laxiflora ssp. violaceaとおぼしき植物をKalanchoe serrataとして写真を載せている。僅かに小学館の「園芸植物大事典」に載った写真が本物と思われる。

 セラタはアンドリンギトラAndringitraを中心としたマダガスカル中南部に分布しているとされ、1947年にMannoni & Boiteauが記載している。幸いなことに原記載図が添えられているので、不死鳥やラクシフローラと似ていないことが一目瞭然である。何故このような誤謬が蔓延っているのか不思議だが、Lexiconの著者のJacobsenが"A Handbook of succulent plants”にKalanchoe serrataと称してK. roseiの変種であろう植物の写真を載せている。この植物は細い葉で葉縁全体に鋸歯があるので、これを不死鳥類と勘違いした人々がK.serrata=不死鳥類という誤謬を流布したのではないかと思われる。


セラタKalanchoe serrataの原記載図(Notulae systematicae 13:151, 1947)
Notulae systematicae.jpg 

実際のセラタはこのような植物である

serrataIMG_5179.JPG

 

 さてラクシフローラ型の最後の1種は葉が大型になるワルトハイミィKalanchoe waldheimiiである。学名はラテン語なのでラテン読みでも英語読みでもよいが、人名由来の種小名はその人名の発音で読むのが一般的だ。しかし通常はなかなか元の人名がどこの人で何語の発音が良いのか判断するのは難しい。Waldheimはロシア人なのでこの植物の名はロシア人名のカタカナ表記に倣ってワルトハイミィとしたが、発音からするとウォールトヒムイと書いた方が近いかも知れない。とりあえずここではワルトハイムと読むことにして種小名はワルトハイミィとし、いずれどこからかクレームが来たら直そうと思う。

 ワルトハイミィの葉の形状はフェッシェンコイと似たようなものなので、若くて葉の小さい株では区別が難しい。フェッシェンコイより葉が肉厚な印象はあるが、感覚的なものでしかない。たまたま売っていたとしても見分けがつかず、狙って入手するのは難しいかも知れない。マダガスカル中部原産。


フェッシェンコイによく似たワルトハイミィK. waldheimii
waldheimiiIMG_5669 (2).JPG 


 改めてリストアップしてみるとラクシフローラとフェッシェンコイの区別さえつけば、フェッシェンコイとロカラナ・ワルトハイミィを混同することはあっても、マルニエリアナ・セラタ・テヌイフローラは識別が容易なのでそれほど混乱しないかもしれない。むしろラクシフローラの種内変異の方が難解かも知れない。


 ラクシフローラ型の現在知られている種については以上である。

子宝草目録2-④ Suffrutescentes/その他の近縁種 前編 [taxonomy]

 ラクシフローラ K. laxifloraとフェッシェンコイK. fedtschenkoiの説明でかなりかかってしまったが、このグループのその他の仲間についても見てみたい。Suffrutescentesは最初の回で触れたようにラクシフローラ K. laxifloraの種群とロゼイK. rosei (ローズィという方が正しいかな)の種群に分かれる。ロゼイ種群に関しては色々と問題があるので後回しにして、まずはラクシフローラ種群の残りの種について述べていきたい。


 この仲間はどれも似たり寄ったりで区別が難しい。前々回ラクシフローラ K. laxifloraの最後に載せた写真のものは国内でたまに見かけるものであるが、これを単品で葉だけ見るとフェッシェンコイにも似るし、その他の種にも似る。花を確認しないとラクシフローラ K. laxifloraとは分からない。将来このタイプが詳しく調べられて実は別種だったという結末になる可能性も皆無ではない。慣れてくると各種の区別はつくようになるが、区別がつきにくい(言い換えると特徴が掴みにくい)種については花を見るしかない。


 さて、ラクシフローラとフェッシェンコイ以外で良く見られる種はマルニエリアナK. marnierianaであろう。葉は先の2種より小型で葉縁に明確な鋸歯や鈍鋸歯はなく、若干の凹凸に不定芽が生じる。このグループとしては葉が特徴的なので、小さな苗でなければ他種との区別はつくと思う。花筒は他種に比べて太くがっしりした感じがする。マダガスカル南東部に自生し、フェッシェンコイとは分布域が重なっている。


マルニエリアナK. marnieriana 最近は分からないが、以前は頻繁に売られていた
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 幼い苗の時にはマルニエリアナによく似るが成長するにつれてフェッシェンコイのような葉になり、さらに成長すると葉柄近くまで鋸歯が生じるようになるのがロカラナK. ×lokaranaである。マダガスカル南部のトラニャロ(トラナロ;Tôlanaro)近郊で見つかった自然交配種で、親の片方はラクシフローラと考えられているようだ。しかしラクシフローラの分布域から考えて、疑問は残る。GBIF : Global Biodiversity Information Facilityの情報を見るとラクシフローラは基本的にマダガスカル中東部に集中的に分布しているが、飛んで南部の一部にも分布していることになっている。これがロカラナの事なのか、ロカラナの親個体群なのか判別がつかない。
2005年にDescoingsによって新種記載されているが、文献上もネット上も大した情報は得られない。これが他種との区別のもっとも難しい種かも知れない。


ロカラナK. ×lokarana 成長すると鋸歯が葉の全縁に見られる
x lokaranaIMG_0281.JPG 
x lokaranaIMG_2638.JPG
 

 ネットで色々と検索しているとロカラナによく似た未記載種と思しきものが引っかかってくる。Kalanchoe sp.としてマダガスカル南部のPic St. Louis産としか情報がない。葉はロカラナよりも明るい色をしていて、テヌイフローラにも似ている。写真で見る限り萼筒も花筒もピンク味が強く、美しい。
 このsp.はそもそも見る機会がないであろうから、ロカラナと混同して悩む必要もないと思われる。

 この仲間では上記のマルニエリアナK. marnierianaが小さな葉を持つが、もう1種テヌイフローラK. tenuifloraも葉の小さな種だ。種小名は細い花の意。2004年にアンタナナリボのTsimbazaza 動植物公園での栽培個体をもとにDescoingsが記載した種で、葉は葉縁に少数の鈍鋸歯があり、楕円形、花は種小名の意味のごとく細めである。この種もやや特徴的なので、ラクシフローラやフェッシェンコイと混同することはないであろう。


葉も細長い印象を受けるテヌイフローラK. tenuiflora
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ユエリの謎 ~自己解決~ [taxonomy]

 少し前に黒錦蝶の記事でユエリKalanchoe beauverdii var. jueliiの学名の謎について大言壮語を宣ってみたものの、その後自己解決してしまった。
(子宝草目録1-③ Scandentes/鉾型葉形とハイブリッド:http://kalanchoideae.blog.so-net.ne.jp/2016-11-10)
 要するに単に植物の知識不足だったわけだが、そのまま放っておくのも恥ずかしいので、早めにここで言い訳しておきたい。

 さて、ユエリの謎とは以下のようなものである。
「疑問と言えばDescoings(2003)もThe Plant Listもこのタイプの変種名を「juelii」としているが、Hamet & H.Perrier (1914)の原記載を見るとスペルは「jueli」である。(中略)この辺の命名規約上の問題がありそうだが、ユエリが種や変種として認められていない現在、解決しようとする者は誰もいない。」
ここで私は二重の勘違いをして、この学名の差異を不思議に思っていたことが分かった。

勘違い①
 植物の学名で人名由来の種小名はその元となる人名をラテン語化して語尾に-i(-e)を付ける。動物の場合は単に人名の後に-i(-e)を付けるだけなので、Hamet & H.Perrier (1914)の原記載での学名のスペル「jueli」がおかしいとは思わなかった。
 しかし植物の学名ではこの種小名(や変種名)の由来元となったウプサラ大学のHans Oscar JuelのJuelをJueliusとラテン語化した上で接尾辞の-iをつけるため、「juelii」となるのが正しかったのだ。

勘違い②
 国際動物命名規約(International Commission on Zoological Nomenclature; ICZN)では原記載論文で発表された学名はそのスペルが間違っていようが、ラテン語の文法上間違っていようが、それが正規の学名として採用される。ところが国際植物命名規約 (International Code of Botanical Nomenclature; ICBN; ウィーン規約、現在は国際藻類・菌類・植物命名規約 International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants; ICN; メルボルン規約 になっている)では第23条や第60条により文法上不適切な語尾は修正されてしまうのだ。
 それで原記載のスペル「jueli」は「juelii」に修正されたのだが、この点が動物畑出身の自分には分かっていなかった。

 つまり「jueli」と「juelii」の違いは植物の学名について多少の知識があれば、謎でも何でもない事象だったのだ。私が植物も動物も概ね同様だと思い込んだために恥をさらしただけの話であった。大体同じルールで命名されるなら規約を分ける必要はない。それをわざわざ分けているのだから少しは調べればよいものを、情けない限りである。
 またしても容易ならざる植物マニアへの道を思い知った。

ユエリKalanchoe beauverdii var. jueliiの変わり葉
G jueliiIMG_0999.JPG


タグ:ユエリ

子宝草目録2-③ Suffrutescentes/ふたつの胡蝶 [taxonomy]

  フェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoiとラクシフローラ Kalanchoe laxifloraは園芸的にはどちらも胡蝶の舞の名で流通しており、混同されている。本来「胡蝶の舞」はラクシフローラなのだがフェッシェンコイの斑入りのタイプに「胡蝶の舞錦」などという紛らわしい名前を付けるものだから混同されるのも無理はない。更にショップでは斑のないフェッシェンコイが「胡蝶の舞」の名で売られていたりする。これではマニア以外の人に混同するなというのは酷である。
 そこで以前にも一度試みたことがあるが、フェッシェンコイとラクシフローラの判別法に再挑戦したい(前回は失敗に終わっている)。わざわざ「判別法」と書いたのは、同定法とまでは言えない経験的なものだからである。前回から3年を経て、私にも少しずつ分かってきた。

 最初にお断りしておくと、若葉はどちらの種も特徴を現さないことが多いので、特に小さな苗では区別がつかない(正確にはつきにくい)と思って頂きたい。両種の特徴が現れるのは多少成長してからである。更に1、2年栽培すると開花するので、花を見ると区別しやすい。

 といいつつ先ずは葉を比較するとフェッシェンコイは葉柄が短く(殆ど無いことも多い)、葉柄近くに鋸歯がなく葉身の上方にのみ鈍鋸歯があるのが典型的な形である。しかし例外も度々あって葉柄近くから鋸歯が見られるタイプもあるが、どちらも葉の全体的な形は逆披針形である。

フェッシェンコイKalanchoe fedtschenkoiの葉
葉柄近くにも鋸歯のある葉(左) と 典型的な形(右) 
IMG_1299.JPG 

 一方ラクシフローラは葉柄が顕著で葉縁全体に鈍鋸歯がある(故にシノニムとして消えた名前でBryophyllum crenatumと命名されたのだろう)。そして葉身の基底部に耳状部(反り返った部分)が生じることが多い。しかし耳状部がない変種もあり、成長過程によって生じていない場合もある。

ラクシフローラ Kalanchoe laxifloraの葉
violacea(左)、subpeltata(中央・右)
IMG_1300.JPG 

ラクシフローラ K. laxiflora(左) とフェッシェンコイK. fedtschenkoi(右)の典型的な葉
laxiflora(T)-fedschenkoiIMG_9625.JPG 

 このように典型的なタイプを比べると両種の違いは明確だが、どちらも変種があり、また変種として記載されていなくとも複数のバリエーションが見られるので、葉だけで判断が難しい場合も多い。
 従って花を比較することになるのだが、下の写真のようにフェッシェンコイの花はオレンジ味が強くて花筒の先は広がっている。一方ラクシフローラでは赤味や朱色が強く花筒の先の開きは少ない。しかし前回述べたようにK. fedtschenkoi var. isalensisでは花は赤みが強く、ラクシフローラでも花筒の先が開くタイプもあるようなので葉と花のコンビネーションで種を判別するのが望ましい。

ラクシフローラ K. laxiflora(左・中央) とフェッシェンコイK. fedtschenkoi(右)の一般的な花
flowers.jpg 

 以上のようなことを書くと結局は区別がつかないように思われるだろうが、実際には意識して見ていると段々と見分けがつくようになってくる。やはり種特有の雰囲気というものがあり、それは植物に限らず動物にも当てはまる識別感覚と言える。