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疑惑の冬もみじ [taxonomy]

 このところ冬もみじについて書いていますが、前回のコメントでいずみっくさんから情報と御指摘を頂きました。ありがとうございました。今回は御指摘内容について、考えてみました。所詮素人の見解ですので、その道に詳しい方いらっしゃいましたら、御教示・御指導頂けると幸甚です。

 さて、いずみっくさんの疑問点をまとめると次の2点になります。
1. ヒメトウロウソウ K. ceratophyllaとラキニアータK. laciniataは同種ではないか
2. 冬もみじは野生種ではなく、3倍体の園芸品種ではないか
この植物は(おそらく)3倍体で有性生殖できない

 こちらについて個人的な見解、というより雑感を述べてみます。真実はともかくとして、現在のところ表向きはKalanchoe ceratophyllaとK. laciniataは別種として扱われています。The International Plant Names Index (IPNI)でも双方検索するとヒットしますし、The Plant List (http://www.theplantlist.org/1/)では2種とも正式学名accepted nameとされています。
 もともとK. laciniataは広域分布種であり、また形態的な変異幅も広いので多数のシノニムが記載されていました。それらは整理されて統合され、K. ceratophyllaもシノニムとされていました。これをWickensが1982年にアジア産の今までK. laciniataとされていた植物はやはり別種であり、ハワースHaworthが記載したK. ceratophyllaの名を適用するという見解を述べました。2003年の大場先生の論文はこれに追従するものですが、よくよく読むとWickensの見解に誰しもが納得しているわけではなく、更なる研究が必要とも書いてあります。
 という訳で、取りあえず今は別種とされているという認識で良いと思います。

  また、頂いたコメントの前振り部分でリュウキュウベンケイとヒメトウロウソウが共に(おそらく)4倍体で交配すると雑種には捻性がある。という情報を頂いていますが、手元の文献では(かなり古いですが)Baldwin Jr.(1938)の染色体の論文にK. laciniataの染色体数が載っており2n=34のようです。しかしフィリピンの個体は2n=68となっていますので、アジアの個体、即ちヒメトウロウソウK. ceratophyllaはいずみっくさんの情報と一致します。K. ceratophyllaはK. laciniataの4倍体の種ではないかという疑問も浮かびます。
  但し、両種は形態的に区別がつくので単純に同質4倍体と考えてよいか疑問も残ります。しかしここでK. laciniataが広域分布していて多形polymorphismが見られることを思い出すと、自分が知らないだけでK. ceratophyllaと形態的に区別がつかない個体群がある可能性も0ではありません。
手っ取り早くは両種の核型分析をする必要があります。
いずれにしてもK. ceratophyllaはK. laciniataの4倍体であれば生殖隔離出来ているので別種とみなす事は出来ます。

 一方、リュウキュウベンケイソウK.spathulataとヒメトウロウソウK. ceratophyllaの生殖隔離機構RIMについては分かりかねます。生殖隔離機構は動物で言うと生物学的種概念biological species conceptの中核です。生物学的種概念自体批判は多いのですが、少なくとも脊椎動物ではかなり有用な概念と思っています。地理的・生態的な要因で交尾に至らない場合と、雑種が出来ても捻性がない、捻性があっても数世代しか持たない(雑種崩壊)というような生殖隔離機構が働いて、比較的種は安定しているように見えます。勿論特殊な例も多数ある事はありますが。
  しかし植物の場合はどのように考えるのか、不勉強で分からないのです。動物と同様に考えて良いなら、人工的に交配して捻性のある雑種が得られても生殖隔離機構が働かないことにはならないのではないでしょうか。動物でも人工的に捻性のある雑種が出来ても、自然界では(滅多に)交雑しないというような例もあります。リュウキュウベンケイソウとヒメトウロウソウという事で言えば、東南アジアで両種が分布する地域での調査が必要かと思います。全くの想像でものを言ってしまいますが、開花時期や時間帯の違いとか、虫媒する昆虫の違い、そもそも選好環境が異なって同所的に混生していないとか、研究テーマとしては面白いと思います。
 また以前情報を頂いた、ヒメトウロウソウの実生苗からリュウキュウベンケイと区別できない欠刻葉でないタイプが1/3発生することからも両種の関係が疑わしいですが、逆にリュウキュウベンケイソウしか分布しない沖縄の個体でも同様の結果(欠刻葉タイプの出現)となるのか興味深いです。来年花が咲けば自分でやってみたいと思います。

 長々と書いてしまいました。次に冬もみじの問題に関しては、非常に乱暴なお話をしてしまいますが、仮にDNA量と染色体数が連動していたとして通常のK. laciniataの3倍体の可能性はあります。核型データ抜きで単なる数合わせとなってしまいますが、K. laciniataが2n=34、ヒメトウロウソウが2n=68で冬もみじが2n=51であれば、形態的にはK. laciniataと同一と思われる冬もみじは同質3倍体とみなしてよいし、捻性がないのも納得です。これが園芸品種なのか自然に生じたものか分かりませんが、花序に生じる不定芽での繁殖が可能です。これも核型やDNAの塩基配列を比較しないと本当の答えは出て来ませんが、直感的に当たらずとも遠からずかと思います。
 Knud Japsenは通常のK. laciniata 2倍体から園芸品種を作ったと考えれば辻褄が合います。残る問題は冬もみじが園芸品種かどうかですが、原種や変種、品種と園芸品種を区別する方法があるのかないのか、これは自分にとってはまだ未知の領域です。

 納得のいくお話にはなっていないかもしれませんが、こんなところが似非植物マニアの現状です。カランコエ全般に最近は分類や系統の研究が停滞しているように思います。未記載種もまだ多いと思いますし、広域分布種のレビジョンを含めて懸案とされるステイタスの種の再調査など課題は山積しているようです。

Plantarum historia succulentarum v2(1802)
K. laciniataの原記載:冬もみじと形態的な相違は?
1-ab.png
2-c.jpg 

冬もみじの花序に形成された不定芽
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冬もみじの混迷 [taxonomy]

 今回は冬もみじについての補足と言うか、前回書ききれなかった関連の話題を紹介したい。
 語彙は一緒だが「冬もみじ」と書くとしっくりこない気もするので、今回はカランコエ・ラキニアータと表現する事にする。勿論Kalanchoe laciniataをそのままカタカナにしただけで、冬もみじの事である。本種は基本的に3つに深裂した特徴的な葉を持つが、実は形状・サイズ共に葉の変異は大きいという。そのため様々な個体群が別種として記載されてシノニムが生まれた。昔日の植物学者は採集した標本で分類していたのも一因であろう。これを育成したり、繁殖させたりすればまた違った展開になったに違いない。前回の記事にコメント頂いた、いずみっくさんの情報ではヒメトウロウソウの葉の形状にも変異があって、リュウキュウベンケイソウと区別がつかない個体が少なからず発生するそうだ(いずみっくさん、情報有難うございました)。
 現在は多くのシノニムが整理されたが、1935年にFont Querが記載したカランコエ・ファウスティKalanchoe faustiiは、1977年にMairer編のFlore de l'Afrique du Nordでベンケイソウ科を記したRosalesが、これをカランコエ・ラキニアータの亜種Kalanchoe laciniata ssp. faustiiとした。この亜種は羽状葉にならず、特徴的なので現在も別種として扱われる事もある。原記載は全く読めなかった(何語? 全部ラテン語?)が、再記載を見るとモロッコのTiliouine周辺の固有種のようだ。いつも参照しているDescoigs(2003)のリストでは、カランコエ・ラキニアータのモロッコの自生は古代に人為分布した可能性も示唆している。しかしその事とファウスティとの関連は不明だ。
 Descoigs(2003)もこれをカランコエ・ラキニアータの亜種扱いにしているが、最近では独立種Kalanchoe  faustiiとしていることも多い。いずれにしても冬もみじ型のラキニアータとは印象が異なる。

 最近知ったのだが、羽状深裂のような切れ込みのある葉を総じて「欠刻葉」というようだ。便利なので以後、この単語を使用したく思う。
01ファウスティ.jpg 
ファウスティKalanchoe laciniata ssp. faustii or Kalanchoe faustii:成長した葉牡丹のような感じで冬もみじとは印象が違う
02冬もみじ.jpg 
冬もみじKalanchoe laciniataの若い個体、まだ葉に深裂が生じていない

 カランコエ・ラキニアータの広域分布と形態の多様性が分類的な混乱、というより分類の整理が進まない要因だが、今後もヒメトウロウソウのように部分的に解明されていくことを期待したいものだ。原種もさることながら、園芸品種でもカランコエ・ラキニアータとの交配種が知られている。クヌート・イェプセン社が1990年代の終わりに発表したアフリカン・カランコエのシリーズに始まり、2000年代半ばの八重咲きのアフリカン・クイーンがそれだが、埼玉・東京地区では殆ど見つけられなかった。
 仕事や他の趣味にうつつを抜かしているうちに、アフリカンシリーズはいつの間にか収束してしまい、八重咲きのものは入手できなかった。(どこかで見かけた方がいらっしゃれば、お知らせ頂けると助かります。)
クヌート・イェプセン社が元親として使用したラキニアータは実際にはヒメトウロウソウのような他種も混じっていたのではないかと思われる。花ものカランコエとの交配で葉の形状が変化しているだけかもしれないが、下の写真のようなものも見られる。
03IMG_8272.jpg04アフリカン オレンジ花.jpg 
品種名不明だが、葉を見るとヒメトウロウソウと見まごう植物だ

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一方、アフリカン・ローズはラキニアータとのハーフというのもうなづける

 ところで「冬もみじ」と呼ばれている植物にはもうひとつ別のタイプも見られる。某有名通販サイトで漆黒蝶と呼んでいるものと同種と思われる。

06IMG_8276.jpg
欠刻葉があり、

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冬には紅葉する

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冬期の芽

 これは何かと思って調べてみたが、これが実際のカランコエ・ラキニアータとしているようなサイトもあって、なかなか難しかった。マダガスカル産のカランコエでは該当しそうな種が見当たらなかったので、アフリカ大陸産の文献を漁って斜め読みして検索表を舐めたところ、Flora Zambesiaca (ザンベジ川流域の植物相)に記載文があったKalanchoe lobataが相当した。
 Kalanchoe lobataはジンバブエに産する草本性のカランコエで、詳しい分布はまだ不明となっている。若い苗や冬期の芽には密度は薄いが柔毛が生えており、ラキニアータとはかなり様相が異なっている。(写真参照)