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胡蝶の舞の素性(前篇) [taxonomy]

 多肉植物としてメジャーな方だと言っていい胡蝶の舞と胡蝶の舞錦。この種の学名は幾つか言われているが、実際はどうなのか整理してみた。勘違いが複合的に絡んで、問題が複雑化しているため複数の学名が使われるに至ったことは分かった。しかし結論から言うと私の様な半分門外漢の者が解決できる、というか正解を決められる内容ではなかった。取りあえず問題点を整理して現状を解き明かしてみる。

 問題点は大きく3つである。①胡蝶の舞と胡蝶の舞錦は別種か? ②ラクシフローラとクレナータは別種かシノニム(同物異名;同種)か。 ③和名が示す種はどれか。このうち①②はここで解決出来たが、③は問題提起に留めてお茶を濁す事にする。

 

    胡蝶の舞と胡蝶の舞錦

 以前ある方のブログ記事へのコメントでこの2つは別種であるような書き込みがあるのを目にした。そんなバカな!と思ったが、その後小学館の園芸植物大事典4を見ると、確かに別種として記されていた。ブリオフィルムとしての記述だったが、胡蝶の舞はB.crenatum(クレナツム)、胡蝶の舞錦はB.fedtschenkoi(フェドチェンコイ)としている。しかも筆者は大場 秀章・松井 謙次の両巨頭と来れば確かであろう。園芸的にはある植物の斑入りが、別種と同じ名前に「錦」をつけて呼ばれる事があるというのは少し驚いた。以前記事に書いた「ファリナセア錦」がファリナケアの斑入りではないというのも、こういう慣習によるものかと勝手に納得した。

 自分の狭い(動物の世界の)了見では、例えばアルビノアフリカツメガエルといえばアフリカツメガエルのアルビノであってネッタイツメガエルのアルビノではあり得なかったので、思いもよらなかった。古い映画の例でいうと最近亡くなられたジュリアーノ・ジェンマ主演のマカロニウェスタン「続・荒野の1ドル銀貨」は「荒野の1ドル銀貨」とは無関係で続編でも何でもなく、「夕陽の用心棒」の方の続編であるのと同じ現象と考えれば分かりやすいかもしれない(?)

 しかし諸先生方、諸先輩方に大変失礼ではあるが、ひとこと言わせて頂くと、やはりこんな和名の付け方は釈然としないというのが本音である。以前ある動物学会で和名をめぐってかなり真摯な議論があって、一部始終の報告を読んだ経験から和名の付け方はそう安易なものではないと認識している。動物の世界とは違うのだ、と言われればそれまでなのだが。

 

 ともあれ和名と学名は、ここまでの段階では属名をカランコエ属に変更して(以前の記事参照)

胡蝶の舞はB.crenatumK.crenata

胡蝶の舞錦はB.fedtschenkoiK. fedtschenkoi

(種レベルでは)ということになる。なお、属名の性が中性から女性に変わるので種小名は語尾変化する(uma)が、人名由来の種小名は変化しない。

 

    ラクシフローラとクレナータ

 ここでの問題はB.crenatumK.crenataの問題と、K.laxifloraとの関係を分けて説明した方が分かりやすいかと思う。簡単に言うとB.crenatumK.laxifloraはシノニムで、K.crenataは別種である。ちょっと分かりにくいかもしれないが、経緯を説明してみる。

 

 1884年にBakerBryophyllum crenatumを新種記載した。さらに1887年には同じ植物をKalanchoe(Kitchingia) laxifloraとして記載している。これは再記載ではなく、単に別種と思って二重に記載している。その後BryophyllumKitchingiaを認めていなかったHamet1907年のカランコエのモノグラフでこの植物をKalanchoe crenataとして扱った。これが後々に混乱を招く元となった。

 というのもその100年ほど前、皆の好きなハオルチアの語源であるHaworthは西アフリカのシェラ・レオーネ産の個体を基に、Kalanchoe crenataという種を1812年に新種記載している。この植物は上向きに花が咲くタイプで、今や各国に帰化もしているメジャー植物である(が、私は見た事がない)。つまり、Bryophyllum crenatumKalanchoe属に帰属が変わった時点でHaworthKalanchoe crenataと同じ学名になってしまったのだ。これをホモニム(異物同名)といい、先取権の原則から1812年記載のHaworthKalanchoe crenataが活きることになる。

 Kalanchoeの学名が無くなったBryophyllum crenatumは、その後本来シノニムとして消えるべき名であったKalanchoe laxifloraがあてがわれたのである。

 しかしこの後も、Hametの間違いを受けての事と思うが、Kalanchoe laxifloraに対してKalanchoe crenataの学名を使った書物が(特に園芸関係で)氾濫し、誤認識がまかり通っているのである。

 

 結論を言うと、胡蝶の舞(とされる植物)はKalanchoe laxifloraであって、Bryophyllum crenatumと呼んでも間違いではないが、Kalanchoe crenataと呼ぶのは(別種の名なので)間違いである。

 

 

多肉植物を語るのに学名を使う必要もないと思うし、こだわりのない人にはどうでもいいことであるが、更に③の問題について次回続けさせて頂きたいと思う。

 

Haworth 1812.png

Haworth 1812Synopsis plantarum succulentarum

Kalanchoe crenataの原記載が載っている

Bryophyllum crenatum原記載.png

Bryophyllum crenatum原記載

Kalanchoe(Kitchingia) laxiflora原記載.png

Kalanchoe(Kitchingia) laxiflora原記載


タグ:胡蝶の舞
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